これが恋なら、良かったのに。







生暖かく、湿った感触が離れていく。
濡れて光る唇がゆっくりと遠ざかっていくのを目で追いながら、ソファの上に投げ出していた腕を持ち上げる。
親指でなぞった私の唇は、彼のものと同じ様に濡れていて。
これ以上触れているのが億劫になって、けれど離すのも何だか違う気がして、かしりと爪を噛んだ。


「・・・・月君。これは、何ですか」
「キスだよ。竜崎」
「それは知っています。そうですが、そうではなくて・・・」
「そうではなくて?」
「・・・・・いえ。いいです」


そう?と笑う彼の顔は、酷く綺麗で。

同時に酷く息苦しかった。






全てをい全てをえるこのいは






初めて出会った時に二人の間にあったものは、恐らく不信・猜疑そして慢心。


彼は私を確かめ、殺す為に。
私は彼を疑い、捕らえる為に。


簡単ではないとは思っていた。彼も、私も。
しかし不可能ではないと信じてもいた。

ところが想像通り、いや想像以上の手強さに私達は決断する。


もっと近くに居るべきだ。居なくてはならない。


そして私達は歩み寄り、擬態する。
『キラ』と『L』ではなく、『夜神 月』と『流河 早樹』という友人同士に。

違う目的の為に同じ手段を選び、偽りの友情を育む。
それは私の名が『竜崎』となっても変わらずに続けられた。






何時からだろう。
はじめに二人の間にあった感情が、執着と言う名に変わったのは。


私は、彼から目が離せない。
彼は、私から目が離せない。



離すことを、許せない。



深く急激な流れの対岸に立ち互いを見遣る私達は、どちらも追う者であり、どちらも追われる者であった。


只違ったのは。
私が橋を架ける材料を探している間に、彼は河を渡る為にその流れに身を投じたと言う事だ。

彼は執着と言う感情を、あっさりと愛という激情に変換させてしまった。



激流の中で彼は笑う。


「竜崎が、好きだよ」


そして私の手を引き、共に堕ちよと誘うのだ。




それは違うと、言えたならどれだけ良かっただろう。
その手を振り払い、流れ沈んでいく彼をただ見ていられたなら、どれだけ。


しかし、抗うには余りにも。

私達の抱く感情は、鮮烈で曖昧で蠱惑的過ぎた。



「竜崎が、好きだよ」
「月君」

彼が笑う。激しい流れをものともせず。

「竜崎が、好きだよ」
「月君。私は」

誘われて踏み込んだその流れは、私には激し過ぎて。


「――――――愛してるよ」
「私は――――」


攫われまいと掴んだ腕は酷く熱くて。
一層深く笑った彼の笑顔は酷く綺麗で。


とうとう私もこの体内に渦巻く感情の名を変えてしまったのだと。


翻弄され束縛され。
襲い来る息苦しさに必死で耐えながら。


私は静かに理解した。







そして、彼は私に口付ける。

「竜崎の唇は、甘いね」
「・・・・・・・・・・月君のは」


少し苦い、と言いかけた言葉は、再び追ってきたそれに奪われて声にならなかった


きっと彼は全てを欲しがる。
私の声も、言葉も、吐息も。


そしてその通り、全てを奪い飲み込もうと執拗に追いかけて来るその唇を。
私はただ黙って受け入れた。











これが恋なら良かったのに。
そうすればお互いの領域を侵す事無く、相手を想っていれば良かっただけなのに。


恋では無く愛になってしまったが故に。


身体だけでは足りない。

心だけでも足りない。

身体も、心も、理想も。

命ですら、手に入れたい。


そして、それを躊躇う必要などありはしない。
躊躇う理由だって無い。




「誰も傷付かない愛なんて、本当の愛じゃないんだよ」




綺麗な笑顔を浮かべて言った彼は。
私を殺す時、どんな表情を浮かべるのだろうか。






―――――そして、わたしは、どんな。






や っ ぱ り く ら い ・・・・! _| ̄|○
甘い二人が書きたいんですよ!加悦サンは!
でも月Lで書くと何故かこんな事に・・・!もう!月の馬鹿!(八つ当たり)
白月にすればいいのか。それともキモイトにすればいいのか。
精進します!Lが幸せな話が書けるように・・・!(え?月は?)

それでは最後まで読んで下さって有難うございました!

TEXT